【第5話】(最終話)
インターホンが鳴り、私と義母は顔を見合わせた。こんな時間に誰だろう?
ドアを開けると、そこには見知らぬ中年女性が立っていた。
「こんばんは。松本さんのお宅でしょうか?」女性は丁寧に尋ねた。
義母が頷くと、女性は自己紹介した。「私は田中と申します。実は、皆様と同じ被害に遭った者同士の会を立ち上げていまして…」
その夜、田中さんの話を聞いて、私たちは驚愕した。「健太郎」こと山田誠は、過去10年間で50人以上の女性から総額3億円以上を騙し取っていたのだ。
「でも、なぜ今まで捕まらなかったんですか?」私は不思議に思って尋ねた。
「恥ずかしくて誰にも言えなかったんです。でも、もう黙ってはいられないと…」田中さんの目に決意の色が宿った。
翌日、私たちは田中さんの紹介で弁護士に相談に行った。
「民事訴訟を起こせば、山田の隠し資産を見つけ出せる可能性があります」弁護士は希望を持たせてくれた。
それから数ヶ月、私たちの生活は大きく変わった。
義母は被害者の会の中心メンバーとなり、詐欺被害の啓発活動に力を入れ始めた。テレビの取材を受けることも増え、その姿は以前より生き生きとしていた。
「あなたのおかげよ」ある日、義母が私に言った。「あなたが気づいてくれなかったら、私はずっと騙されたままだったわ」
私は照れくさそうに笑った。「いいえ、お母さんが勇気を出して真実を受け入れたからですよ」
民事訴訟も進み、驚くべきことに山田の海外口座が発見された。被害総額の7割近くが回収できる見込みだという。
そして、訴訟終結から1年後—
義母の家のリビングには、たくさんの人が集まっていた。被害者の会のメンバーたち、そして…
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」義母が切り出した。「今日は大切な発表があるんです」
義母の隣に立っていたのは、穏やかな笑顔の紳士。なんと、被害者の会で知り合った同じ境遇の方だった。
「私たち、来月結婚することにしました」
驚きの声と祝福の言葉が飛び交う中、私は思わず涙がこみ上げてきた。
義母が私に近づいてきて、耳元でささやいた。
「あなたの元彼との子供…なんて言ってごめんなさいね」
「もう忘れましょう」私は笑いながら答えた。「それより、お母さんの子供が私の弟か妹になるかもしれないってことですか?」
義母は顔を赤らめながら、幸せそうに微笑んだ。
その夜、家に帰る途中、空を見上げると満天の星空が広がっていた。
人生は思いがけない方向に進むことがある。でも、真実を見極める勇気と、前を向いて歩み続ける強さがあれば、どんな困難も乗り越えられる。
義母との騒動は、私にそのことを教えてくれた。
そして今、新しい家族の形を迎える義母を見て、私は確信した。
人生に、遅すぎることなんてない。幸せになるのに、年齢なんて関係ないのだ。
私は深呼吸をして、ゆっくりと歩き出した。
明日からは、私自身の新しい人生の章が始まる。
そう、私もまた、自分の幸せを探す旅に出るのだ。
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