【1話:消えた記憶と突然の逮捕】
母の記憶喪失が始まったのは半年前からだ。医師は「ストレスによる解離性健忘」と診断した。日によって症状の程度が変わり、良い日と悪い日の差が激しい。
朝、いつものように声をかける。
「お母さん、おはよう」
母は少し困惑した表情を浮かべる。
「あら、美咲ちゃん。おはよう」
安堵のため息が漏れる。今日は私の名前を覚えていた。
キッチンで朝食の準備をしていると、母が話しかけてきた。
「ねえ、美咲ちゃん。今日は何曜日だっけ?」
「金曜日だよ、お母さん」
母は小さくうなずいた。カレンダーを見つめる目が悲しげだ。
突然、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
母が玄関に向かう。ドアを開けた瞬間、驚きの声が上がった。
「奥山さん、逮捕します」
警官の厳しい声が響く。何が起きているのか理解できない。
「お母さん!」
私は玄関に駆け寄った。母は既に手錠をかけられていた。
「美咲、大丈夫よ。きっと何かの間違い」
母の言葉とは裏腹に、警官の表情は冷たかった。
「殺人容疑です」
その一言で、私の世界が音を立てて崩れ始めた。
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