【2話:隠された過去の影】
あの日から一週間が経った。母が殺人容疑で逮捕されたショックが、まだ私の心に重くのしかかっている。
逮捕直後、母の様子が突然変わった。目が鋭く光り、声のトーンが低くなる。母の主治医が説明していた「解離状態」だった。
「15年前の8月17日、午後11時23分」
母がそう呟いた瞬間、警官たちは驚いて顔を見合わせた。
「どういうことですか?」刑事が尋ねたが、母は黙ったまま虚空を見つめるだけだった。
「お母さん?」私が不安になって声をかけると、母は我に返ったように首を振った。
「美咲、ごめんね。何か…思い出しそうで…」
それが、母との最後の会話となった。
警察の取り調べは続いているらしい。母の弁護士によると、記憶喪失の症状が取り調べに影響を与えているという。
「奥山さん、15年前の8月17日について話してください」
刑事の声が冷たい。母は困惑した表情を浮かべる。
「すみません…思い出せません」
記憶喪失は本当なのか、それとも演技なのか。
弁護士は「症状は本物」と主張しているが、検察は疑わしい目を向けているらしい。
家の中を片付けていると、母の日記を見つけた。
開くべきか迷う。でも、真実を知る手がかりかもしれない。
恐る恐る開くと、15年前の日付のページがあった。
「今日、彼に会った。もう二度と会うまいと思っていたのに」
心臓が高鳴る。この「彼」とは誰なのか。
次のページを開こうとした瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
慌てて日記を隠す。
ドアを開けると、見知らぬ男性が立っていた。
「初めまして、美咲さん。私は岸本と言います」
男性の目が、どこか母に似ている気がした。
「実は、あなたのお母さんのことで話があって…」
その言葉に、私の背筋が凍りついた。
コメント