【第3話】
電話を切った後、義母と私は顔を見合わせた。状況が予想以上に複雑になっていることを、二人とも悟っていた。
「お母さん、この『健太郎』って人とどこまで話が進んでるの?」私は恐る恐る尋ねた。
義母は目を伏せ、小さな声で答えた。「実は…結婚の話も出ているの」
その言葉に、私は衝撃を受けた。「ちょっと待って。まだ会って3ヶ月でしょ?」
「でも、彼は本当に優しくて…」義母の目に涙が浮かんでいた。
私は深呼吸をして冷静になろうとした。「お母さん、今から徹底的に調べるわ。絶対におかしいから」
その夜、私は眠る間も惜しんでパソコンに向かった。SNSアカウント、写真の出どころ、健太郎と名乗る人物の背景…あらゆる情報を洗い出していく。
翌朝、私は愕然とした表情で義母の家を訪れた。
「お母さん、大変なことが分かったわ」
義母は不安そうな顔で私を見つめた。
「その『健太郎』って人、本名も年齢も嘘。複数のSNSで同じ手口の被害報告があるの。これ、間違いなく結婚詐欺よ」
義母の顔から血の気が引いていく。「そんな…でも、妊娠だって…」
「その『妊娠』も怪しいわ。彼が紹介したっていう病院、実在しないの」
義母は椅子に崩れ落ちた。「私…お金を渡してしまったの。老後の蓄えのほとんど…」
その瞬間、義母のスマートフォンが鳴った。またしても「健太郎」からだ。
私は義母に目配せし、スピーカーモードで電話に出た。
「もしもし、お義母さん?」甘い声が響く。「昨日の話なんですが…」
その声を聞きながら、私の中に決意が芽生えた。この詐欺師から義母を守り、お金を取り戻す——。そのためには、相手の罠にはまったフリをして…
「はい、健太郎さん」私は義母のふりをして答えた。「あなたの言う通りにします」
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